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浅草 並木 藪蕎麦
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雷門を背にして大通りを歩いていくと、ずっとビル群が続きます。
ファーストフード店やしゃれたレストランが並ぶ道に、本当に古色蒼然とした蕎麦屋があるのかと
半信半疑になります。
しばらく歩くうちに、これはやっぱりないのかな・・・と考え始めます。それとも道を間違えたか。
こんな大通りに面して小さな蕎麦屋があるわけない・・・
と思っていると、なんだか傾いたような木造の家がビルにはさまれたように、いや、ビルに挟まっ
ています。
バス停の前にあって、そこだけ柳が繁っているような間口の小さな木造の民家、良く見ると蕎麦
屋です。
これが並木の藪か・・・
よくこんな所に建ってる、いや挟まってるなと感心することでしょう。
一目でずいぶん古い建物だとわかります。
暖簾もかかっているので確かに蕎麦屋とわかる。
知らなければここで蕎麦をたぐろうとはなかなか思わないのでは。
しかし、わざわざここに来た人はみんなつぶやきます。
「ここかぁ、並木の藪とは」
そして引き戸を開けて暖簾をくぐるのです。
さて、暖簾をくぐるときに気をつけなければいけないことがあります。
それは、引き戸から手を離してはいけないということ。
例えば引き戸を開け、その手で暖簾を分けてはいけません。
そうすると身体に何かぶつかってくるショックが。打ち所が悪ければ「あいたた」となるでしょう。
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並木の藪の引き戸は、手を放すと勝手に閉まってきます。
そして予期しない身体には意外に大きな衝撃で、足腰の弱い方はよろけてしまうかもしれませ
ん。
こうして書いている私も二度腰を打ったことがあります。
それも知っている人にとっては薬味のようなもので、「ああ、この引き戸は」と引いた手を離さず
に身体を店の中に滑り込ませるのです。
まあしかしこの薬味は無用なのですが。引いた手の力を緩めて戻ろうとする戸の重みを確かめ
ると、いつも思います。
「とはいえこの引き戸を直すとなると入口を少々改築しなくてはならない。そうなるとこの風合い
は失われるかしら」
そんなことを思いながらテーブルに腰掛けます。
まかないのお姉さんはいつものように割烹着でおよそ昔ながらのなんてことない食堂のいでた
ちです。
そこで夏場ならもりを頼む。天ざるもいいか。
冬場ならもりとかけです。(もりじゃなくてざるだったかな)
がたつくテーブルとイスに腰掛け、先客が蕎麦をすする音や、新聞をめくるがさがさ言う音を聞
いていると、藪といいながらも気負いのないただ蕎麦をたぐる店だなと妙な感慨が沸いてきます。
そうして出てきた蕎麦をすすって、辛口のつゆを蕎麦湯で飲み干すと、あっという間に蕎麦の旅
は終り。
お勘定をして次は一杯と雷門に向かってまた歩き出すのです。
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